かってな語学日記

日本語、外国語、言語学、文字、その他いろいろな語学のこと

スラヴ語動詞の構造 目次と概要

「スラヴ語動詞の構造」目次

 目次はこのページと、ブログ右側のサイドバー、ツイートをまとめたモーメントの3つを作る予定なので、利用しやすい方法で利用して頂ければと。

 『ロシア語動詞の構造』は第7課まであるので、「スラヴ語動詞の構造」もいずれは第7課まで書くつもり。第5課以降の内容については考え中。その他、必要に応じて補足記事を書くことにする。

 新たに目次&概要記事を作ったのに合わせて、すでに書いた4つの記事をいくらか加筆・修正する予定(本当はこの記事の更新と共に一新する予定だったけど間に合わなかった)。

「スラヴ語動詞の構造」とは

 ロシア語の動詞の構造について解説した、原求作『ロシア語動詞の構造』水声社, 2001)という優れた参考書がある。この本を読んだとき、これを参考にして、ロシア語を含むスラヴ語派に属する言語を"動詞の構造"という点から比較していったら面白いんじゃないか、と思ったのがそもそもの始まりである。

 言語の系統分類によると、ロシア語はインド・ヨーロッパ語族スラヴ語派に属す。スラヴ語派に属する言語を総称して、"スラヴ諸語"あるいは"スラヴ語"などと言う。ロシア語のほかにも、ポーランド語、スロヴェニア語など、10以上の言語がスラヴ語派に属している。スラヴ語がどれだけ似ているかを示すために、「食べる」「書く」を意味する動詞を比べてみると、

  食べる 書く
ロシア語 есть {est'} писать {pisat'}
ウクライナ їсти {jisty} писати {pysaty}
ベラルーシ есці {esci} пісаць {pisac'}
ポーランド jeść pisać
チェコ語 jíst psát
スロヴァキア語 jesť písať
スロヴェニア jesti pisati
セルビア語/クロアチア語 jesti pisati
古代教会スラヴ語 jasti sati

こんな感じになる。似ているのは、語源が同じ語を共有しているからでもあるし、それに加えて、動詞の構造が同じだからでもあると思う。

 そこで実際にこれらの言語でいろいろな動詞の例を集めて、『ロシア語動詞の構造』を参考に比較していくと、実に興味深い結果になった。面白い発見もいろいろあったし、分からないこともいっぱい増えた。それらを分かりやすく整理して、ブログに記録しておこうというのが、この「スラヴ語動詞の構造」の主旨である。タイトルは『ロシア語動詞の構造』をもじってつけた。

記事の方針

対象言語

 比較の対象となる言語はロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語の10言語。

 ブルガリア語とマケドニア語は対象言語には含めない。『ロシア語動詞の構造』がまず不定形を分類するところから始まっているので、不定形の存在しないブルガリア語とマケドニア語はちょっと扱いに困る。どうにかして比較対象に含めたいところだけど、今はそこまで考えている余裕がないので、今後の課題。

 ルシン語、カシュブ語、ソルブ語ボスニア語、ツルナゴーラ語なども、一応スラヴ語派に属する言語として『スラヴ語入門』などに載っているけれど、対象言語には含めない。主に、資料が足りないという理由で。

言語名・文字表記

 言語名は略さずに全部書く(今のところ)。

 ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語はキリル文字を使用しているので、{}を使ってラテン文字で翻字を併記する。例えばписать {pisat'}のように。翻字方法は三谷惠子『スラヴ語入門』(三省堂, 2011)に拠った。

 セルビア語とクロアチア語はおおよそ語彙が共通しているので、語彙が異なる場合を除いてはセルビア語/クロアチア語のようにまとめて書く。セルビア語はキリル文字を使っているけれど、ラテン文字でも表記できるので、今回は分かりやすいラテン文字で統一することにする。

 古代教会スラヴ語は最初からラテン文字に翻字して書く。表記方法は木村彰一『古代教会スラブ語入門(新装版) 』(白水社, 2003)に拠った。

その他

 なるべく、分かりやすく書く。あとで自分で見返したときにも見やすいように。

参考文献

 このページのほか、「スラヴ語動詞の構造」関係で参考にした主な書籍。

スラヴ語動詞の構造 第2課 不定形の分類 (3)

第2課 不定形の構造 (2) の続き)

A5 語根がkまたはgで終わるグループ

 このグループは、語根末の*k, *gが不定形語尾の*tiとくっついて、少し特殊な変化を起こす。この*kt, *gtという音連続が表層構造でどんな子音に反映されるかによって、さらに細かく分ける。

 ほかのグループと違い、語根末の子音だけでなく、不定形語尾の*tiも変化するところが特徴的。

ロシア語 печь {peč'} < *pek-ti
мочь {moč'} < *mog-ti
スロヴェニア peč-i < *pek-ti
moč-i < *mog-ti

 ロシア語、スロヴェニア語では*kt, *gtがčになる。このčは、日本語で言うと「チャ・チュ・チョ」みたいな音。ロシア語では軟音記号のьが後につき、スロヴェニア語ではiが後につく。

ウクライナ пек-ти {pek-ty} < *pek-ti
мог-ти {moh-ty} < *mog-ti
ベラルーシ пяч-ы {pjač-y} < *pek-ti
магч-ы {mahč-y} < *mog-ti

 ウクライナ語、ベラルーシ語ではまずgの発音が変化している。キリル文字のгはロシア語ではgだけど、ウクライナ語、ベラルーシ語ではhになる(しかし英語のhや日本語のハ行とはまた別の音)。

 ウクライナ語ではkt, gt (→ht) がそのまま残り、ベラルーシ語ではそのまま残る場合とčになる場合の2パターンがある。ベラルーシ語のмагчы {mahčy} という動詞を見ると、gが変化したhと、gtが変化したčが同時に存在しているので、たぶん一度čに変化したあとhが付け足されたんだろうと思う。ウクライナ語も同様に一度čのような音に変化したあとで、k, hが復活したんじゃないかと思うけど、詳しいところは自分にはよく分からない。

ポーランド piec < *pek-ti
móc < *mog-ti
チェコ語 péc-t < *pek-ti
moc-t < *mog-ti
スロヴァキア語 piec < *pek-ti
môc < *mog-ti

 ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語では*kt, *gtがcになる。このcはドイツ語のzweiやイタリア語のgrazieなどのzと同じ「ツ」の子音。その後につくチェコ語、スロヴァキア語のt, ťは、おそらく*kt, *gtがcに変化したあとで付け足されたもの。その証拠に、同じく語根に*ktを持っていた名詞の「夜」を表す語は、ポーランド語でもチェコ語でもスロヴァキア語でもnocになる。

 チェコ語には-tのほか-iで終わる不定形がある。口語と文語の違いなのか? 『ニューエクスプレスチェコ語』にはmoctが口語、mociが文語で載ってるんだけど、ほかの動詞に関してもそういう違いがあるのか、もうちょっとよく調べたかったけど間に合わなかった。これ以上更新を空ける訳にはいかないので、この件は一旦保留。

セルビア пећ-и {peć-i} < *pek-ti
моћ-и {moć-i} < *mog-ti
クロアチア語 peć-i < *pek-ti
moć-i < *mog-ti

 セルビア語、クロアチア語では、*kt, *gtはćという音になる。『スラヴ語入門』によると、ポーランド語のćと同じ音らしい。セルビア語、クロアチア語では「行く」を表す動詞ићи/ićiにもこの音が出てくるということは、A2グループのときにすでに説明したとおり(→ 第2課不定形の分類 (1) )。

古代教会スラヴ語 pešt-i < *pek-ti
mošt-i < *mog-ti

 古代教会スラヴ語では*kt, *gtがštになる。*k, *gがšに変わったと解釈すべきなのか、*kt, *gtがštに変わったと解釈すべきなのか迷う。

 古代教会スラヴ語を表記していたグラゴル文字やキリル文字では、šやtを表す文字とは別に、štを表す文字があった。また、古代教会スラヴ語の音韻体系について、木村彰一『古代教会スラブ語入門』では、šとštを軟子音、tを硬子音に分類している。この辺りの事情から、上の表ではpešt-i, mošt-iのようにštまでを語根とし、不定形語尾のtは語根の*k, *gと合わさってštに変化した、という風に解釈した。

A6 語根がrまたはlで終わるグループ

 語根末にr, lがあると、不定形では「母音重複」あるいは「音位転換」という現象が起こる。

ロシア語 у-мере-ть {u-mere-t'} < *u-mer-ti
моло-ть {molo-t'} < *mel-ti
ウクライナ у-мер-ти {u-mer-ty} < *u-mer-ti
моло-ти {molo-ty} < *mel-ti
ベラルーシ па-мер-ці {pa-mer-ci} < *po-mer-ti
мало-ць {malo-c'} < *mel-ti

 ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語では「母音重複」が起こり、r, lのあとに母音が付け足される。母音とr, lの組み合わせによって、深層構造も*er, *or, *el, *olの4パターンあるのだけど、全部例を載せると煩雑になるので、ほかのグループと同じように2例だけ(*erと*el)にした。

 *erの場合は後にeが重複してereとなるけれど、*elの場合は本来eleとならずに、なぜかoloになる。『ロシア語動詞の構造』によるとこの原因はよく分かっていないらしい。ベラルーシ語で*elがaloとなっているのは、アクセントのないoがaと発音され、それが綴りにも反映されるため。

 また、ウクライナ語、ベラルーシ語ではなぜか*erの場合だけ母音重複が起きずに、erのままになっている。erだけ変化が起こらなかったか、あるいは変化が起こったあとerだけ元の形に戻ったか、どちらにしても奇妙である。

ポーランド u-mrze < *u-mer-ti
mle < *mel-ti
チェコ語 u-mří-t < *u-mer-ti
mlí-t < *mel-ti
スロヴァキア語 u-mrie < *u-mer-ti
mlie < *mel-ti
スロヴェニア u-mre-ti < *u-mer-ti
mle-ti < *mel-ti
セルビア у-мре-ти {u-mre-ti} < *u-mer-ti
мле-ти {mle-ti} < *mel-ti
クロアチア語 u-mrije-ti < *u-mer-ti
mlje-ti < *mel-ti
古代教会スラヴ語 mrĕ-ti < *mer-ti
mlĕ-ti < *mel-ti

 そのほかの言語では「音位転換」が起こり、r, lと母音の位置が入れ替わる。簡単に言うと*er, *elはre, leになる。しかし、ただ入れ替わるだけでなく、母音が変化したりするので、深層構造と表層構造を比べると、かなり違う印象を受ける。

 上の表では*er, *elの場合を例に出した。例を省略した*or, *olの場合も母音と子音の位置が入れ替わるはずだけど、実のところ、 そうなる例をちゃんと探して確認したわけじゃないので、ハッキリとはいえない。しかし名詞の例は確認しているので、*or, *olを語根にもつ動詞があれば、やはり「音位転換」が起こるはずである。

 

 何かいつにも増して説明的になってしまったような。ここまで不定形の分類について書いてきて今更だけど「もっと分かりやすく書けるんじゃないか」「ここは余計かもしれない」「ここはもうちょっと説明を加えるべきか」などなど思う所があるので、どこかで加筆・修正したい。

(次の記事へ続く)

スラヴ語動詞の構造 第2課 不定形の分類 (2)

第2課 不定形の分類 (1)の続き)

A3 語根がpまたはbで終わるグループ

 このグループに属す語はあまり多くない。『ロシア語動詞の構造』でも語根がbで終わる語しか触れられていないし、ほかの言語を探しても、あまり例が見つからない。しかしその割には言語間の隔たりが大きい。

ロシア語 грес-ти {gres-ti} < *greb-ti

 『ロシア語動詞の構造』によると、ロシア語では、まず不定形でbが脱落する。その後bの代わりに現れたsは、A1グループのнестиやвестиなどの影響による、とのこと。грестиの現在形はгреб-у {greb-u} であり、語根にbを持っていることが分かる。

ウクライナ греб-ти {greb-ty} < *greb-ti
ベラルーシ граб-ці {grab-ci} < *greb-ti

 ウクライナ語、ベラルーシ語では不定形にbが残る。もしかしたら深層構造*greb-tiのまま、最初からほとんど変化していないのかもしれない。しかし、おそらく両言語とも、ロシア語と同じように一度bが脱落したものと思われる。その後何らかの理由によりbが復活したのではないか。

 詳しく書くと長くなるのだけど、おそらくbが脱落するというこの現象は、かなり前、スラヴ語が文字で書かれるより前に起こっていた変化だと思われる。その頃はロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語は独立した言語ではなかったから、bが脱落するという特徴も共有されていたはず。そのあとでbが復活したと考えられる。たぶん、現在形の影響で。

セルビア црпс-ти {crps-ti} < *crp-ti
гребс-ти {grebs-ti} < *greb-ti
クロアチア語 crps-ti < *crp-ti
greps-ti < *greb-ti

 セルビア語црпсти/クロアチア語crpstiは、現在形(1単)がцрп-ем/crp-emであり、語根末にpがある。грепсти/grepstiも、現在形(1単)はгреб-ем/greb-emであり、語根末にbがあることが分かる。

 これもウクライナ語、ベラルーシ語と同じように一度p, bが脱落し、後に復活したと思われる。今見たように現在形にはp, bが脱落せず残っているから、不定形と現在形の辻褄を合わせようとして不定形のほうが変化したのではないだろうか(いわゆる類推)。しかし結局セルビア語/クロアチア語の音韻体系には合わなかったのか、さらに間にsが挿入されている。

 грепсти/grepstiでbがpに変わっているのは、音の変化を綴りに反映するセルビア語/クロアチア語の特徴。bの後に無声子音が続くので、同化してbも無声子音のpに変わる。

古代教会スラヴ語 te-ti < *tep-ti
gre-ti < *greb-ti

 古代教会スラヴ語では素直にp, bが脱落している。しかしやはり、現在形(1単)がそれぞれtep-ǫ, greb-ǫなので、語根末にp, bがある。

 ほかの言語では例が見つからなかったので省略。ここに書いた言語でも、これら以外の例はほとんど見つからなかった。元々このグループに属する語が少ないのだと思う。

 

A4 語根がstで終わるグループ

 このグループは『ロシア語動詞の構造』ではA5グループになっているのだけど、訳あって本来のA4グループを飛ばして、数字を1つ繰り上げている。詳しくはA7グループのときに。

 A4グループに属する語はたぶんこの例しかない。いずれも深層構造は*orst-tiである。

ロシア語 рас-ти {ras-ti}
ウクライナ рос-ти {ros-ty}
ベラルーシ рас-ці {ras-ci}
チェコ語 růs-t
スロヴァキア語 rás
スロヴェニア ras-ti
セルビア рас-ти {ras-ti}
クロアチア語 ras-ti
古代教会スラヴ語 ras-ti

 現在形ではいずれも語根末にstを持っている。語根にそのまま不定形語尾*tiを付けると*orsttiとなってtが続くので、2つのtが融合して1つになる。あるいはA2グループと同じようにtt>stという変化が起こり、その後でssがsに融合した。という風に『ロシア語動詞の構造』では説明されている。ロシア語以外でも同じ変化が起きているので、この変化はこれらの言語が分かれる前、共通スラヴ語の時代に起きたものなのだろう。

 ポーランド語でこれらに対応するのはrosnąć。語根は同じだけど構造が違う。

 

補足1 共通スラヴ語について

 どんな言語も昔からずっと今のような形をしていたわけではない。ロシア語やポーランド語などスラヴ語派としてまとめられる言語たちは、スラヴ祖語というたった1つの言語に遡ると考えられる。もとは1つの言語だったのが、だんだんと地域差が大きくなり、また民族の独立とかも関係したりして、別々の言語に分かれていった。

 スラヴ祖語がまだ共通性を保っていた時代の、特にその末期の言語を共通スラヴ語という。この時代に起きた変化は、その後のロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語…etc.と分かれていった言語すべてに受け継がれることになる。例えばA2グループにおけるtt>stの変化A3グループにおけるp, bの脱落A4グループにおけるstt>stへの短縮など。

 一方、共通スラヴ語の時代が終わると、それぞれの言語は違う特徴を持って発展していった。すべてのスラヴ語に共通ではない変化は、それぞれが後の時代に発展させていった特徴だと考えられる。例えばA1、A2グループにおけるポーランド語のs, z>ś, źという変化A3グループにおけるp, bの復活A4グループ*orst-tiのorの反映の違いなど。

 それを含めて考えてみると、またちょっと面白くなるかな…?

(次の記事へ続く)

スラヴ語動詞の構造 第2課 不定形の分類 (1)

第1課 動詞の基本的な構造についてのつづき)

第2課 不定形の分類

 不定形の深層構造に基づいて動詞を分類していく。第1課でも少し説明したように、動詞の不定形にはテーマ音を持つものと、持たないものがある。ここではテーマ音を持つかどうかによって、動詞を大きく二つのグループに分ける。以下の二つはスロヴェニア語の例。

(1) nes-ti
(2) kup-i-ti

 『ロシア語動詞の構造』では(1)のようなテーマ音を持たないタイプをAグループ、(2)のようなテーマ音を持つタイプをBグループとして分類している。またAグループは語根がどういう音で終わるかによって、Bグループはテーマ音が何であるかによって、さらに細かく分けられる。こんな感じで、『ロシア語動詞の構造』の分類を、ロシア語以外のスラヴ語にも適用していく。

 そして細かい分類ごとに、表層構造と深層構造の間でどういう違いがあるかを調べる。上のnestiとkupitiの場合、表層構造と深層構造が変わらないので分かりやすい。しかし中には表層構造と深層構造がかなり異なるものもある。この表層構造と深層構造の関係は言語ごとに違ったり、同じだったりするので、比較するとすごく面白い。

 

 

注意書き

 『ロシア語動詞の分類』から少し変えたところがあるので、その都度、どう変えたのか説明を加えることにする。そういう訳で、A1やB2などの分類番号は必ずしも『ロシア語動詞の分類』と同じではないことに注意。

 以下、表中では左から順に言語名 表層構造 深層構造となっている。簡単に言うと、表層構造が元はこんな形だった、ということを深層構造が表している。しかし深層構造は"こんな構造をしていただろう"と考えられるだけで、実際に存在したかどうかは分からない形なので、言語学の慣習に従ってアステリスク (*) を付ける。

 間に入っているハイフン (-) は語の構造的な切れ目を示す。そのうち最も基本になる語根を太字で示すことにする。語根より前にあるのは接頭辞、後にあるのは1つなら不定形語尾、2つならテーマ音-不定形語尾である。接頭辞も含めて深層構造を示すとなると、ますますそういう形が存在したか疑わしくなってくる。動詞が表層構造のような形に"変化した"あとで接頭辞が付いたかもしれない。しかしここでは細かいことは気にせず、接頭辞も含めて深層構造を示すことにする。

 翻字は {} の中に書く。キリル文字が読めない場合は {} の中の翻字を見比べると良い。またスラッシュ (/)を使ってキリル文字/ラテン文字のように書いたり、あるいはセルビア語とクロアチア語の場合のみ、セルビア語/クロアチア語のように書くこともある。何にせよ/を使う場合は常に左側がキリル文字、右側がラテン文字である。

 構造を示すのが目的なので、語の意味までは書かない。

 

A1 語根がsまたはzで終わるグループ

 このグループは、深層構造で語根末にsまたはzがある。

ロシア語 нес-ти {nes-ti} < *nes-ti
вез-ти {vez-ti} < *vez-ti
ウクライナ нес-ти {nes-ty} < *nes-ti
вез-ти {vez-ty} < *vez-ti
ベラルーシ нес-ці {nes-ci} < *nes-ti
вез-ці {vez-ci} < *vez-ti
チェコ語 nés-t < *nes-ti
véz-t < *vez-ti
スロヴァキア語 nies < *nes-ti
viez < *vez-ti

 ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、チェコ語、スロヴァキア語では、表層構造と深層構造で、s, zに変化はなし。

ポーランド nieś < *nes-ti
wieź < *vez-ti

 ポーランド語では語根末のs, zが、不定形語尾ćに同化してś, źに変化する。ćは硬口蓋音、一方s, zは歯音なので、発音しやすいようにs, zがćと同じ硬口蓋音ś, źへと変わる。

 深層構造ではs, zだということは、例えば現在形を見ると分かりやすい。現在形ではあとにćが続かないので、この変化が起こらずs, zのままだからである。例としてnieść, wieźćの不定形および現在1人称単数形を挙げると以下のようになる。

nieś-ć, nios

wieź-ć, wioz

 

スロヴェニア tres-ti < *tręs-ti
gris-ti < *gryz-ti
セルビア трес-ти {tres-ti} < *tręs-ti
грис-ти {gris-ti} < *gryz-ti
クロアチア語 tres-ti < *tręs-ti
gris-ti < *gryz-ti
古代教会スラヴ語 nes-ti < *nes-ti
ves-ti < *vez-ti

 スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語では、zが不定形語尾tの前で無声化し、sとなる。ロシア語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語でも無声化は起こるけれど、綴りには反映されない。

 ポーランド語の例と同じように、現在形では後ろにtが続かないためこの変化が起きず、一見変わった変化をしているように見える。参考までに、スロヴェニア語gristiと、古代教会スラヴ語vestiの不定形および現在1人称単数形を挙げておく。

gris-ti, griz-em

ves-ti, vez

 

 セルビア語のдонети {doneti}、クロアチア語のdonijetiは、意味と語形から考えて、*nestiに接頭辞*doが付いて出来た動詞で、このA1グループに属すると思われる。しかし不思議なことに、この2語は不定形で語根末のsが脱落してしまう。元からこういう形をしているのではなく、語根にsを持っていることは、やはり現在形を見ると分かる。例として、それぞれの不定形、現在1人称単数、2人称単数形を挙げる。

до-не-ти, до-нес-ем, до-нес-еш

do-nije-ti, do-nes-em, do-nes-eš

 百瀬亮司『セルビア語読解入門』を見る限り、ほかにも同じタイプの動詞がいくつかあり、いずれも*nestiに接頭辞が付いて出来たと思われる。ロシア語のдонести {donesti}や、ポーランド語のprzynieśćなど、*nestiに接頭辞が付いた動詞はほかの言語にもあるのだけど、不定形でsが脱落するタイプはセルビア語、クロアチア語のほかに見たことはない。接頭辞が付いたことが原因なのか、ほかに何か理由があるのか……。

 

A2 語根がtまたはdで終わるグループ

 このグループは、深層構造で語根末にtまたはdがある。

ロシア語 плес-ти {ples-ti} < *plet-ti
вес-ти {ves-ti} < *ved-ti
ウクライナ плес-ти {ples-ti} < *plet-ti
вес-ти {ves-ty} < *ved-ti
ベラルーシ плес-ці {ples-ci} < *plet-ti
вес-ці {ves-ci} < *ved-ti
チェコ語 plés-t < *plet-ti
vés-t < *ved-ti
スロヴァキア語 plies < *plet-ti
vies < *ved-ti
スロヴェニア ples-ti < *plet-ti
ses-ti < *sѣd-ti
セルビア плес-ти {ples-ti} < *plet-ti
до-вес-ти {do-ves-ti} < *do-ved-ti
クロアチア語 ples-ti < *plet-ti
do-ves-ti < *do-ved-ti
古代教会スラヴ語 ples-ti < *plet-ti
ves-ti < *ved-ti

 ttあるいはdtという子音連続になるのを避けて、異化という現象が起こる。前のt, dがsに変わり、結果的にA1グループと似たような感じになる。

ポーランド pleś < *plet-ti
wieś < *ved-ti

 ポーランド語でも同じ現象が起こり、t, dがsに変わる。そしてその後A1グループと同じ変化が起こり、sがćに同化してśに変化する。A1の場合と同じように、現在形を見ると、実はtあるいはdを持っているということがよく分かる。参考までに不定形と現在1人称単数形を挙げる。

pleś-ć, plot
wieś-ć, wiod

 不定形ではs, zに変わってしまったt, dが現在形では変わらずに残っている、というのは、ポーランド語以外の言語でも同じ。現在形については後々また触れることになるし、全部挙げると記事が無駄に長くなるだけなので、ここでは省く。詳しくはあとで。

 

 さて、A2グループにもちょっとした例外がある。「行く」という意味の動詞で、どのスラヴ語でも似たような形をしている。語根末にdがあるのでA2グループに属することは確かだけど、その先の変化が少し特殊なので別にまとめておく。なお、すべて深層構造は*id-tiである。

ロシア語 ид-ти {id-ti}

 ロシア語では不定形でdがそのまま残る。本来ならисти {isti}となるはずである。

ウクライナ и-ти {y-ty}
チェコ語 -t
スロヴェニア i-ti
古代教会スラヴ語 i-ti

 ウクライナ語、チェコ語スロヴェニア語、古代教会スラヴ語ではdが脱落する。これも本来のA2グループの変化とは異なっている。

ベラルーシ іс-ці {is-ci}
ポーランド
スロヴァキア語 ís

 ベラルーシ語、ポーランド語、スロヴァキア語は本来のA2グループと同じ変化をする。すなわち、ベラルーシ語とスロヴァキア語ではdがsに変わり、ポーランド語ではさらにsがśに変わる。

セルビア ић-и {-i}
クロアチア語 -i

 セルビア語、クロアチア語では*dtがćに変わるという、ほかのどれとも違う変化が起こる。ここに現れるћ/ćという音は、たぶん次の次くらいの記事で触れることになる、*kt+iあるいは*kt+ьという結合で出てくる音。それがなぜだか*dt+iという結合のときにも現れる。なぜだ。

 なぜかはともかくとして、これだけ多様に分かれているのが興味深い。チェコ語とスロヴァキア語ってとても近いのに、どうしてチェコ語ではjítで、スロヴァキア語ではísťなのか? とか、その辺りを説明出来たら良いのだけど、今のところは無理。でもいつかはもっと突っ込んで調べたい。

第2課 不定形の分類 (2)へ続く)

スロヴェニア語のverjetiという動詞

 前回の記事で、スロヴェニア語の動詞verjeti「信じる」の現在形(1人称・単数)がverjamemとなる理由が分からない、と書いた。その理由が分かったかもしれないのでちょっと書く。

verjetiの構造

 結論から先に言うと、これはver-が「信じること」を表す語根で、-jetiが「取る」という動詞に由来しているのだと思う。語根は名詞や形容詞や動詞などを作るための「素材」のようなもので、これに接頭辞や接尾辞をくっつけて、様々な語を作っていく。たとえばロシア語ならвер{ver}という語根にいろいろな接尾辞を付けて、動詞верить{verit'}「信じる」、形容詞верный{vernyj}「信じられる」、名詞вера{vera}「信念」などが作られる。

 スロヴェニア語もふつうは意味の元となる語根に、名詞を作る接尾辞、形容詞を作る接尾辞、動詞を作る接尾辞などをくっつけて語が作られる。しかしverjetiの場合、語根verのあとにくっついているjetiは接尾辞ではなく動詞がくっついているから不思議だ。

 verjetiがverjamem, verjameš, verjame...と活用することからも動詞の本体がverではなくjetiであることは明らかだし、不定形には存在しなかったmが現在形に共通して現れるのは、スロヴェニア語のvzeti(現在形はvzamem, vzameš, vzame...)やprejeti(現在形はprejmem, prejmeš, prejme...)などとよく似ている。頭に付いているvzとpreは動詞の意味を派生させる接頭辞、残るeti, jetiが「取る」という意味の動詞で、これは古くからあったもの。ロシア語などほかのスラヴ語にも広く残っていて、『ロシア語動詞の構造』で解説されているять{jati}という動詞に間違いない。この動詞は、不定形で語根の*emが音変化を起こしているので、不定形にはないmが現在形に現れるという少し変わった活用をする。

 このことから考えると、verjetiという動詞はver-jetiという構造から成っていると考えられる。

古代教会スラヴ語のvěrǫ jęti

 もう一つ、verjetiがver-jetiという構造だと裏付ける証拠を、木村彰一『古代教会スラブ語入門』に見つけた。この本の巻末にある単語集によると、věrǫ jętiで「信じる」という意味を表すらしい。věrǫはvěra「信(ずること)」の対格、要するに目的語で、jętiは「取る」である。これを見た瞬間にハッとした! まさにこれじゃないか!? スロヴェニア語のverjetiはここから来ているんじゃないか、と。「信を取る」→「信じる」という言い方があったわけだ。スロヴェニア語のverjetiは昔あったそんな表現が徐々に融合して、やがて一つになったんじゃないだろうか。つまりver-が「信」、-jetiが「取る」を表しているのではないか。

 ただ、古代教会スラヴ語のこの表現が、そのままスロヴェニア語に受け継がれたのかどうかは分からない。「古代」と付いているけれど、英語に対する古英語のような関係とは違い、古代教会スラヴ語がロシア語やスロヴェニア語などになったわけではない。もしかしたら古代教会スラヴ語の影響なのかもしれないし、元々スラヴ人たちの間にこういう言い回しがあったのかもしれない。元々あったのならスロヴェニア語以外にほとんどその名残が見られないのが不思議なので、どちらかというと古代教会スラヴ語の影響なのかなと思う。

まとめ

 結局のところ語源を遡れるには限界があって、まだまだ調べたりないのだけど、少なくともverjetiが「信」+「取る」という組み合わせで出来ているのだということは、正解に近づけたような気がした。スラヴ語の動詞の不定形は、基本的に「語根」+「テーマ音」+「接尾辞」という構造になっている。そこで最初はverjetiがver-je-tiあるいはverj-e-tiのような構成をしているのかと考えたけど、どうもその可能性は皆無に近いことが分かった。それよりももっと納得のいく語源が見つかったので安心した。

 先週くらいから、そろそろスラヴ語の動詞の構造についての記事を本格的に書こうと思っているのだけど、なかなか書けないでいる。今回書いた記事のことも考えると、もうちょっと「分からないこと」を潰してから始めるのがいいかもしれない。次週何を書くかもまだ未定。ただ、十中八九スラヴ語の話にはなると思う。

スラヴ語動詞の構造 進捗メモ2

「スラヴ語動詞の構造」について

 スラヴ語の動詞の構造について、原求作さんの『ロシア語動詞の構造』を参考にしつつ調べるという試み。スラヴ語とは、ロシア語を含むスラヴ系諸言語のこと。対象言語はロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語、ブルガリア語、マケドニア語の12言語。『ロシア語動詞の構造』が、動詞不定形の分類を基本としているのに対して、ブルガリア語とマケドニア語には不定形がないので、この2言語に関しては扱いを保留中。でも不定形以外の動詞の構造は調べたい。

 具体的にどんなことをやっているかというと、『ロシア語動詞の構造』で動詞の構造はかなり細かく説明されているので、それをほかの言語にも当てはめていく。ロシア語のплести{plesti}がплет-ти{plet-ti}という構造になっているのなら、ポーランド語のpleśćも、スロヴェニア語のplestiも、同じplet-tiという構造をしていると考える。そして、そこに表れる細かい変化を観察する。plesti「編む」の場合、ロシア語とスロヴェニア語はよく似ているけれど、ポーランド語ではt→s→śという変化が起きたんだな、というように。

 こんなことができるのも、語源を共有している語がスラヴ語によく残っていて、お互いに本当によく似ているからこそ。とはいえ、ポーランド語のpleśćのように、ほかと少し違う形に変わっているものもある。そういう点を比較していくのがこの「スラヴ語動詞の構造」でやりたいこと。まとめるのはまだ先になるので、この記事では今現在の進捗状況とぶつかった問題を、前回に続きメモしておく。

第4課 進捗メモ2

 第4課は不定形と現在形の関係。ロシア語以外の不定形と現在形を、別紙にまとめた不定形の分類ごとに書いていく。問題は次から次へと出てくるけれど、作業は割と順調。

 スラヴ語の動詞現在形は人称(1人称・2人称・3人称)と数(単数・複数)によって活用するので、現在形だけで6つの変化形があるのがふつう。スロヴェニア語では双数もあるので、現在形が9つある(怖)。今回は動詞の構造を比較するだけだから、変化のタイプが分かればそれで十分なので、1人称単数・2人称単数だけメモする。

 この現在形1人称単数・2人称単数を見て紙に書いていく作業が実に楽しい。意味わからん現在形にぶつかることもあるけどそれはそれ。不定形の分類は同じでも、現在形の分類は別だったり、現在形で同じ語尾が付くとしても、違う音変化を起こしていたりするので、とにかくたくさん例を集める必要がある。そのために、辞書をぱらぱらめくって語を探す時間は何ものにも代えがたい。ただずっと同じ作業を繰り返すことになるので割と疲れる。

問題5 分類が分からない語

 ぶつかる問題のほとんどがコレ。不定形の分類に従って作業を進めているのに、そもそもどのグループに分類されるのか分からないものがある。『ロシア語動詞の構造』における不定形の分類は表層構造ではなくて、深層構造に基づいて分類されているので、zobaczyćとukryćのように見た目は同じyćで終わっていても違うグループだとか、そういうことがあり得る。スラヴ語間で語源も構造も同じ語があれば分かりやすいのだけど、実際は語源は同じでも動詞を作る構造は別ということもある。この辺り素人にはちょっと厳しいかも。

 たとえばセルビア語のпросути{prosuti}「こぼす」は現在形がпроспем{prospem}となり、不定形にはないп(p)が現在形に現れる。しかしこういうタイプの動詞がほかスラヴ語にはあまりない。ロシア語のпросыпать{prosypat'}「こぼす」が似ているけれど動詞の構造が違うので、ロシア語のほうがどういう構造かは分かっても、セルビア語のほうは分からない。現在形を見る限りでは、просути{prosuti}はもともと語根にп(p)をもっているんだろうけど、そうだとしたらгребсти{grebsti}と同じグループに分類されることになり、しかも違う音変化を起こしていることになる…。うーんわからん。

 スロヴェニア語はverjeti「信じる」が現在形(1単)でverjamemとなる(mが現れる)理由と、močiの現在形(1単)がmoremとなる理由がよく分からない。verjetiの活用はvzeti → vzamemのようなタイプと似ている。しかし意味からするとverが語根だと思うし、ver-jetiだとしたら接頭辞も接尾辞も使わず語根+語根+語尾という構造をしていることになる。そんなことがあり得るのか…。močiは不定形の分類は分かる。ロシア語のмочь{moč'}やポーランド語のmócと同じで深層構造はmog-tiのはず(gtiという子音連続が音変化を起こす)。過去形はmogelだし間違いないと思うのだけど、なんと現在形はmorem, moreš...とgではなくrが現れる。過去形がmorelになっていたらまだ良かったものの、これも一体どういうことなのやらサッパリ。

次回予告的なもの

 今回もこういう記事になったので、来週も同じような記事を書くことになるかなと思う。まだまだ終わる気配がない。どこかでバーッと時間を取って作業時間を増やしたい。このブログを書いている時間がもったいないもうちょっとで第4課の範囲が終わるはずなので、そしたら一旦第1課~第4課辺りまでまとめる、というのもありかもしれない。第2課と第4課が一番面白いところだと思うから、ここまでまとめたらあとは飽きてやらなくなる可能性もないとは言い切れないけども。

スラヴ語動詞の構造 進捗メモ

スラヴ語動詞の構造

 先週の記事で、原求作さんの『ロシア語動詞の構造』を参考にしてスラヴ語の動詞の構造を調べたい、ということを書いた。対象言語はロシア語のほかに、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語ブルガリア語、マケドニア語、古代教会スラヴ語。スラヴ語はまだいくつかあるけれど、資料が足りないのでこれが自分の限界である。これで12言語、単純に考えてロシア語だけ調べるのに比べて12倍の労力がかかる…。

 今までに調べて途中で放置していたのがあるので、その続きから調べ始めた。具体的に言うと、『ロシア語動詞の構造』の第1課、第2課、第3課までは終わっていたので、第4課「動詞不定形と動詞現在形の関係」を今調べているところ。第4章と聞くと「なんや結構進んでるやん」と思うかもしれないけども、これでもまだ不定形と現在形を調べただけで全然まだまだ…! これから過去形、能動形動詞、被動形動詞、副動詞、命令形と様々な形態が続いていく。それが第5課と第6課で、第7課は不規則動詞、そのあとに補説がある。まだまだ先は長い。

 ということで、今回は軽く進捗状況と、ぶつかった問題をメモしておく。

問題1 ブルガリア語とマケドニア

 『ロシア語動詞の構造』の第1課から第4課までは、基本的に不定形と現在形のことが書かれている。ここで問題なのが、ブルガリア語とマケドニア語には不定形が存在しないということ。うーんどうしたものか…! しかもよくよく考えると、第5課以降もだいたい不定形の分類に従って話が進んでいくので、不定形をもたないブルガリア語とマケドニア語を対象に入れるのはきついかもしれない。

 そもそもスラヴ語の中で、ブルガリア語とマケドニア語は少し特殊な言語である。不定形が存在しないだけでなく、動詞の時制もロシア語より複雑なので、『ロシア語動詞の構造』を参考にしてアレコレ調べるには……やっぱりちょっときついかも。

 しかしそれでもスラヴ語の一員であることには変わりない。こうなったらブルガリア語とマケドニア語だけ別に調べることにするとか。ちょっと、このあとの第5課、第6課辺りもどう調べるか、一度考える必要がありそう。

第1課~第4課 進捗メモ

 第1課ではロシア語動詞の基本的な構造、第2課では不定形の分類、第3課では現在形の分類、第4課ではこれらを受けて不定形と現在形の関係について書かれている。スラヴのどの言語でも動詞の基本構造は大して変わらなくて、『ロシア語動詞の構造』における分類がほぼそのまま通用するのが有難い。とはいえ『ロシア語動詞の構造』はロシア語について書かれた本なので、ほかのスラヴ語についても調べようとすると、多少分類をいじる必要もある。

 例えば、不定形の分類で「語根末にbがある」グループ。ロシア語ではб(b)を語根にもつгрести(現在形гребу)や、скрести(現在形скребу)がこのグループに属す。このグループの動詞は、現在形で語根にбが現れ、不定形にも実はбが隠れている(元はгребтиという構造だった)。『ロシア語動詞の構造』では「語根末にpがある」動詞については書かれていなかったけど、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語などの本を見ると語根末にpをもつ動詞があって、語根末にbをもつ動詞と同じグループに属していることが分かる。なので、改めてロシア語でも「語根末にpをもつ動詞」はないのか?と探したけど辞書には載ってないみたいだった。しかしセルビア語などに存在することを考慮すると「語根末にpまたはbがある」グループとしてまとめ直すのが妥当かな、と思う。

 現在形の分類は、ロシア語だとе型とи型の二つに大別され、あとは少数の不規則動詞があるだけ……なのだけど、ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、古代教会スラヴ語以外の8言語には、これに加えてもう一つ動詞の型がある。これに関しても、ロシア語の分類はいったん忘れて、再分類する必要がある…。例えばスロヴェニア語では現在形1人称単数の語尾が-am, -em, -imの3パターンある。a型、e型、i型という風に分かれているようにも見えるけれど、そもそもロシア語には現在形1人称単数の語尾がм(m)で終わるような型が(一部の不規則動詞を除いて)存在せず、1人称単数にmが現れるのは西と南の現代スラヴ語における特徴となっているので、1人称単数に-mをもつタイプをまとめて仮に「混合型」と呼んで分類することにした。スロヴェニア語のa型、e型、i型が全部ここに入ってしまうので、まだ再検討の余地があるかもしれない。

問題2 動詞の分類について

 上に書いたように、ロシア語の分類だけでは通用しない部分も多少ある。例えば「語根末にs, zがある」グループは、ロシア語だと不定形語尾を付けても語根が変化しないタイプだけど、ポーランド語やスロヴェニア語などでは変化する。そうなると、『ロシア語動詞の構造』でされていたような、深層構造に基づく分類、「語根末に○○をもつ」とか「語根と語尾の間に○○をはさむ」のような分類だけだと不十分な気もしてきた。

 しかしこれこそが最大の面白みというか。不定形と現在形の関係を調べると、不定形が「語根末にs, zがある」グループは動詞の活用が見事にすべてe型(混合型の場合はeが現れる型)になる。不定形語尾を付けたときに起こる変化は様々だけど、根っこに共通したものをもっているのがすごく面白い。

問題3 古代教会スラヴ語

 これは些細な事だけど、一応。最初は古代教会スラヴ語についてまで調べるつもりはなくて、第4課の範囲から一緒に調べ始めたので、後で第3課までの範囲についてやり直さないといけない。古代教会スラヴ語はもう死語だから、対象に含めるかどうかちょっと考えたけど、データは揃ってるしどうせだからやってしまおうということで。

次回予告(?)

 興が乗ってきたので、しばらくスラヴ語動詞の構造について調べるつもり。ある程度まとまったらブログに書きたい。しかしまとまるのはだいぶ先になる、というか、最悪まとまらずに途中で飽きる可能性もある。なんというか、やってる間は楽しいけど、第3課までやって一度放置したように、別に面白いことを見つけたらそっちに興味が移ってしまう。なるべくそうならずに最後までやりとおしたいところ。