かってな語学日記

日本語、外国語、言語学、文字、その他いろいろな語学のこと

スラヴ語動詞の構造 第2課 不定形の分類 (1)

第1課 動詞の基本的な構造についてのつづき)

第2課 不定形の分類

 不定形の深層構造に基づいて動詞を分類していく。第1課でも少し説明したように、動詞の不定形にはテーマ音を持つものと、持たないものがある。ここではテーマ音を持つかどうかによって、動詞を大きく二つのグループに分ける。以下の二つはスロヴェニア語の例。

(1) nes-ti
(2) kup-i-ti

 『ロシア語動詞の構造』では(1)のようなテーマ音を持たないタイプをAグループ、(2)のようなテーマ音を持つタイプをBグループとして分類している。またAグループは語根がどういう音で終わるかによって、Bグループはテーマ音が何であるかによって、さらに細かく分けられる。こんな感じで、『ロシア語動詞の構造』の分類を、ロシア語以外のスラヴ語にも適用していく。

 そして細かい分類ごとに、表層構造と深層構造の間でどういう違いがあるかを調べる。上のnestiとkupitiの場合、表層構造と深層構造が変わらないので分かりやすい。しかし中には表層構造と深層構造がかなり異なるものもある。この表層構造と深層構造の関係は言語ごとに違ったり、同じだったりするので、比較するとすごく面白い。

 

 

注意書き

 『ロシア語動詞の分類』から少し変えたところがあるので、その都度、どう変えたのか説明を加えることにする。そういう訳で、A1やB2などの分類番号は必ずしも『ロシア語動詞の分類』と同じではないことに注意。

 以下、表中では左から順に言語名 表層構造 深層構造となっている。簡単に言うと、表層構造が元はこんな形だった、ということを深層構造が表している。しかし深層構造は"こんな構造をしていただろう"と考えられるだけで、実際に存在したかどうかは分からない形なので、言語学の慣習に従ってアステリスク (*) を付ける。

 間に入っているハイフン (-) は語の構造的な切れ目を示す。そのうち最も基本になる語根を太字で示すことにする。語根より前にあるのは接頭辞、後にあるのは1つなら不定形語尾、2つならテーマ音-不定形語尾である。接頭辞も含めて深層構造を示すとなると、ますますそういう形が存在したか疑わしくなってくる。動詞が表層構造のような形に"変化した"あとで接頭辞が付いたかもしれない。しかしここでは細かいことは気にせず、接頭辞も含めて深層構造を示すことにする。

 翻字は {} の中に書く。キリル文字が読めない場合は {} の中の翻字を見比べると良い。またスラッシュ (/)を使ってキリル文字/ラテン文字のように書いたり、あるいはセルビア語とクロアチア語の場合のみ、セルビア語/クロアチア語のように書くこともある。何にせよ/を使う場合は常に左側がキリル文字、右側がラテン文字である。

 構造を示すのが目的なので、語の意味までは書かない。

 

A1 語根がsまたはzで終わる

 このグループは、深層構造で語根末にsまたはzがある。

ロシア語 нес-ти {nes-ti} < *nes-ti
вез-ти {vez-ti} < *vez-ti
ウクライナ нес-ти {nes-ty} < *nes-ti
вез-ти {vez-ty} < *vez-ti
ベラルーシ нес-ці {nes-ci} < *nes-ti
вез-ці {vez-ci} < *vez-ti
チェコ語 nés-t < *nes-ti
véz-t < *vez-ti
スロヴァキア語 nies < *nes-ti
viez < *vez-ti

 ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、チェコ語、スロヴァキア語では、表層構造と深層構造で、s, zに変化はなし。

ポーランド nieś < *nes-ti
wieź < *vez-ti

 ポーランド語では語根末のs, zが、不定形語尾ćに同化してś, źに変化する。ćは硬口蓋音、一方s, zは歯音なので、発音しやすいようにs, zがćと同じ硬口蓋音ś, źへと変わる。

 深層構造ではs, zだということは、例えば現在形を見ると分かりやすい。現在形ではあとにćが続かないので、この変化が起こらずs, zのままだからである。例としてnieść, wieźćの不定形および現在1人称単数形を挙げると以下のようになる。

nieś-ć, nios

wieź-ć, wioz

 

スロヴェニア tres-ti < *tręs-ti
gris-ti < *gryz-ti
セルビア трес-ти {tres-ti} < *tręs-ti
грис-ти {gris-ti} < *gryz-ti
クロアチア語 tres-ti < *tręs-ti
gris-ti < *gryz-ti
古代教会スラヴ語 nes-ti < *nes-ti
ves-ti < *vez-ti

 スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語では、zが不定形語尾tの前で無声化し、sとなる。ロシア語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語でも無声化は起こるけれど、綴りには反映されない。

 ポーランド語の例と同じように、現在形では後ろにtが続かないためこの変化が起きず、一見変わった変化をしているように見える。参考までに、スロヴェニア語gristiと、古代教会スラヴ語vestiの不定形および現在1人称単数形を挙げておく。

gris-ti, griz-em

ves-ti, vez

 

 セルビア語のдонети {doneti}、クロアチア語のdonijetiは、意味と語形から考えて、*nestiに接頭辞*doが付いて出来た動詞で、このA1グループに属すると思われる。しかし不思議なことに、この2語は不定形で語根末のsが脱落してしまう。元からこういう形をしているのではなく、語根にsを持っていることは、やはり現在形を見ると分かる。例として、それぞれの不定形、現在1人称単数、2人称単数形を挙げる。

до-не-ти, до-нес-ем, до-нес-еш

do-nije-ti, do-nes-em, do-nes-eš

 百瀬亮司『セルビア語読解入門』を見る限り、ほかにも同じタイプの動詞がいくつかあり、いずれも*nestiに接頭辞が付いて出来たと思われる。ロシア語のдонести {donesti}や、ポーランド語のprzynieśćなど、*nestiに接頭辞が付いた動詞はほかの言語にもあるのだけど、不定形でsが脱落するタイプはセルビア語、クロアチア語のほかに見たことはない。接頭辞が付いたことが原因なのか、ほかに何か理由があるのか……。

 

A2 語根がtまたはdで終わる

 このグループは、深層構造で語根末にtまたはdがある。

ロシア語 плес-ти {ples-ti} < *plet-ti
вес-ти {ves-ti} < *ved-ti
ウクライナ плес-ти {ples-ti} < *plet-ti
вес-ти {ves-ty} < *ved-ti
ベラルーシ плес-ці {ples-ci} < *plet-ti
вес-ці {ves-ci} < *ved-ti
チェコ語 plés-t < *plet-ti
vés-t < *ved-ti
スロヴァキア語 plies < *plet-ti
vies < *ved-ti
スロヴェニア ples-ti < *plet-ti
ses-ti < *sѣd-ti
セルビア плес-ти {ples-ti} < *plet-ti
до-вес-ти {do-ves-ti} < *do-ved-ti
クロアチア語 ples-ti < *plet-ti
do-ves-ti < *do-ved-ti
古代教会スラヴ語 ples-ti < *plet-ti
ves-ti < *ved-ti

 ttあるいはdtという子音連続になるのを避けて、異化という現象が起こる。前のt, dがsに変わり、結果的にA1グループと似たような感じになる。

ポーランド pleś < *plet-ti
wieś < *ved-ti

 ポーランド語でも同じ現象が起こり、t, dがsに変わる。そしてその後A1グループと同じ変化が起こり、sがćに同化してśに変化する。A1の場合と同じように、現在形を見ると、実はtあるいはdを持っているということがよく分かる。参考までに不定形と現在1人称単数形を挙げる。

pleś-ć, plot
wieś-ć, wiod

 不定形ではs, zに変わってしまったt, dが現在形では変わらずに残っている、というのは、ポーランド語以外の言語でも同じ。現在形については後々また触れることになるし、全部挙げると記事が無駄に長くなるだけなので、ここでは省く。詳しくはあとで。

 

 さて、A2グループにもちょっとした例外がある。「行く」という意味の動詞で、どのスラヴ語でも似たような形をしている。語根末にdがあるのでA2グループに属することは確かだけど、その先の変化が少し特殊なので別にまとめておく。なお、すべて深層構造は*id-tiである。

ロシア語 ид-ти {id-ti}

 ロシア語では不定形でdがそのまま残る。本来ならисти {isti}となるはずである。

ウクライナ и-ти {y-ty}
チェコ語 -t
スロヴェニア i-ti
古代教会スラヴ語 i-ti

 ウクライナ語、チェコ語スロヴェニア語、古代教会スラヴ語ではdが脱落する。これも本来のA2グループの変化とは異なっている。

ベラルーシ іс-ці {is-ci}
ポーランド
スロヴァキア語 ís

 ベラルーシ語、ポーランド語、スロヴァキア語は本来のA2グループと同じ変化をする。すなわち、ベラルーシ語とスロヴァキア語ではdがsに変わり、ポーランド語ではさらにsがśに変わる。

セルビア и-ћи {i-ći}
クロアチア語 i-ći

 セルビア語、クロアチア語では*dtがćに変わるという、ほかのどれとも違う変化が起こる。ここに現れるћ/ćという音は、たぶん次の次くらいの記事で触れることになる、*kt+iあるいは*kt+ьという結合で出てくる音。それがなぜだか*dt+iという結合のときにも現れる。なぜだ。

 なぜかはともかくとして、これだけ多様に分かれているのが興味深い。チェコ語とスロヴァキア語ってとても近いのに、どうしてチェコ語ではjítで、スロヴァキア語ではísťなのか? とか、その辺りを説明出来たら良いのだけど、今のところは無理。でもいつかはもっと突っ込んで調べたい。

(次の記事へ続く)

スラヴ語動詞の構造 第1課 動詞の基本的な構造について

はじめに

 作業が一区切りしたので、これから「スラヴ語動詞の構造」記事を本格的に書いていく。内容は、原求作『ロシア語動詞の構造』(水声社, 2001)を参考に、スラヴ語族に属する諸言語(=スラヴ語)の動詞の構造を比較していくというもの。対象言語はロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語の10言語。

 どんな言語にも不規則動詞というものが多かれ少なかれ存在する。英語のgo「行く」の過去形がwentになったりするように、ロシア語のидти{idti}「行く」の過去形がшёл{šël}になるとか、スロヴェニア語に至ってはiti「行く」の現在形がgrem、過去形がšelになるなど、スラヴ語にも「どうしてこうなった」と言わんばかりの厄介な動詞がたくさんある。そういう動詞が実はこういう構造になっている…というのを分かりやすく説明してくれるのが『ロシア語動詞の構造』で、それをスロヴェニア語とかほかのスラヴ語と比較しながら見て行ったらすごく面白いんじゃないか、と思ったのが最初の動機だった。実際にやってみたら、いろいろなことが見えてきて面白かったし、分からないこともいっぱい増えた。これから書く記事は要するにその記録である。

 『ロシア語動詞の構造』の構成は、第1課は動詞の基本的な構造、第2課は不定形に基づく分類、第3課は現在形の語尾、第4課は不定形と現在形の関係、第5課は不定形語幹から作られる形態(過去形など)、第6課は現在形語幹から作られる形態(命令形など)、第7課はどの分類にも属さない一部の不規則動詞について、そして補説は第1課~第7課までの内容を補うものになっている。基本的にはこの構成に従って、順番にやっていくことにする。今回はこの「はじめに」と割と短く書けそうな「第1課」を書いて、第2課以降は長くなるので、いくつかの記事に分けて書く。変なところで分かれたりするかもしれないけど、あとで目次を作ったり工夫はするつもりなのでご容赦を。

翻字について

 必要に応じてキリル文字にはラテン文字の翻字を付けることにする。翻字方法は三谷惠子『スラヴ語入門』で使われているものが分かりやすいのでこれを採用。古代教会スラヴ語に関しては、木村彰一『古代教会スラブ語入門(新装版)』の標準化正書法に基づいて、最初からラテン文字に翻字して書く。翻字をするときは、идти{idti}のようにキリル文字{ラテン文字}と表記する。

 自分用の芽もにはいちいち翻字は付けないのだけど、ブログだと誰が読むか分からないのであったほうがいいかなと。その一方で、動詞の構造さえ分かってもらえればOKだし、翻字で読めない文字のイメージを伝えるのにも限界があるので、ときには翻字を省略することもあるかもしれない。実を言うとこの辺り自分でもどうするか決めかねているので、書いているうちに方針が変わるかも。

第1課 動詞の基本的な構造について

 ではでは第1課から。ロシア語の動詞の構造は、ほぼそのままスラヴ語の動詞の構造にも当てはまる。不定形や現在形など変化形を問わず基本的には、次のような構造で作られている。

語根+テーマ音+語尾

 語根は基本的な意味を表す要素で、ここにテーマ音を挟んで、不定形なら不定形の語尾、現在形なら現在形の語尾、過去形なら過去形の語尾を付ける。テーマ音がなく、語根に直接語尾を付けることもある。スロヴェニア語を例にとると、

(1) nes-ti
(2) kup-i-ti

 (1)のnesti「運ぶ」はテーマ音を持たず、語根に直接語尾を付けるタイプ。一方、(2)のkupiti「買う」は語根kupと語尾tiの間にテーマ音iが入る。テーマ音にはa, e, iなどのいくつかの種類があって、語根とテーマ音の組み合わせ方も言語によって微妙に違う。例えばロシア語のжить{žit'}「暮らす」はživ-tiという構造でテーマ音を持たないけれど、スロヴェニア語のživeti「暮らす」はživ-e-tiという構造でテーマ音eを持っている、など。

 このživ-tiという構造が実際にはжить{žit'}となっているように、動詞が見たままの構造をしているとは限らない。『ロシア語動詞の構造』では、živ-tiのように表に現れない構造を深層構造、жить{žit'}のように実際に見える形を表層構造と呼んで区別している。この深層構造を調べていくのが面白い。一見不規則動詞に見えるものも、深層構造を見てみると規則的な変化だったりする。その辺り具体的にどういうことかというのは、これ以降の記事でたっぷりと…。

 あくまで一例にすぎないけれど、対象10言語それぞれについて(1)テーマ音を持たないタイプと、(2)テーマ音を持つタイプの例を挙げておく。

(1)テーマ音を持たないタイプ
ロシア語 нес-ти
ウクライナ нес-ти
ベラルーシ нес-ці
ポーランド nieś-ć
チェコ語 nés-t
スロヴァキア語 nies
スロヴェニア nes-ti
セルビア трес-ти
クロアチア語 tres-ti
古代教会スラヴ語 nes-ti
(2)テーマ音を持つタイプ
ロシア語 куп-и-ть
ウクライナ куп-и-ти
ベラルーシ куп-і-ці
ポーランド kup-i-ć
チェコ語 koup-i-t
スロヴァキア語 kúp-i-ť
スロヴェニア kup-i-ti
セルビア куп-и-ти
クロアチア語 kup-i-ti
古代教会スラヴ語 ljub-i-ti

 (1)の表はセルビア語/クロアチア語のтрести/tresti「揺れる」を除いて、すべて同じ語根から作られているし、(2)の表も古代教会スラヴ語のljubiti「愛する」を除いて語根(およびテーマ音も)すべて同じである。こんな感じで、同じ語根に同じテーマ音を付けた動詞がよくあるので、『ロシア語動詞の構造』の方法論がロシア語以外のスラヴ語にも通用する。そしてときどき、語根は共通しているのに、テーマ音の有無や種類が違う動詞があったりするからなお面白いし、とても比較し甲斐がある。

 ところで、これらはすべて不定形である。『ロシア語動詞の構造』の第2課では、ここでいう(1)テーマ音を持たないタイプをA、(2)テーマ音を持つタイプをBとして、不定形を2つのグループに分類している。

第2課 不定形の分類 (1)につづく)

スロヴェニア語のverjetiという動詞

 前回の記事で、スロヴェニア語の動詞verjeti「信じる」の現在形(1人称・単数)がverjamemとなる理由が分からない、と書いた。その理由が分かったかもしれないのでちょっと書く。

verjetiの構造

 結論から先に言うと、これはver-が「信じること」を表す語根で、-jetiが「取る」という動詞に由来しているのだと思う。語根は名詞や形容詞や動詞などを作るための「素材」のようなもので、これに接頭辞や接尾辞をくっつけて、様々な語を作っていく。たとえばロシア語ならвер{ver}という語根にいろいろな接尾辞を付けて、動詞верить{verit'}「信じる」、形容詞верный{vernyj}「信じられる」、名詞вера{vera}「信念」などが作られる。

 スロヴェニア語もふつうは意味の元となる語根に、名詞を作る接尾辞、形容詞を作る接尾辞、動詞を作る接尾辞などをくっつけて語が作られる。しかしverjetiの場合、語根verのあとにくっついているjetiは接尾辞ではなく動詞がくっついているから不思議だ。

 verjetiがverjamem, verjameš, verjame...と活用することからも動詞の本体がverではなくjetiであることは明らかだし、不定形には存在しなかったmが現在形に共通して現れるのは、スロヴェニア語のvzeti(現在形はvzamem, vzameš, vzame...)やprejeti(現在形はprejmem, prejmeš, prejme...)などとよく似ている。頭に付いているvzとpreは動詞の意味を派生させる接頭辞、残るeti, jetiが「取る」という意味の動詞で、これは古くからあったもの。ロシア語などほかのスラヴ語にも広く残っていて、『ロシア語動詞の構造』で解説されているять{jati}という動詞に間違いない。この動詞は、不定形で語根の*emが音変化を起こしているので、不定形にはないmが現在形に現れるという少し変わった活用をする。

 このことから考えると、verjetiという動詞はver-jetiという構造から成っていると考えられる。

古代教会スラヴ語のvěrǫ jęti

 もう一つ、verjetiがver-jetiという構造だと裏付ける証拠を、木村彰一『古代教会スラブ語入門』に見つけた。この本の巻末にある単語集によると、věrǫ jętiで「信じる」という意味を表すらしい。věrǫはvěra「信(ずること)」の対格、要するに目的語で、jętiは「取る」である。これを見た瞬間にハッとした! まさにこれじゃないか!? スロヴェニア語のverjetiはここから来ているんじゃないか、と。「信を取る」→「信じる」という言い方があったわけだ。スロヴェニア語のverjetiは昔あったそんな表現が徐々に融合して、やがて一つになったんじゃないだろうか。つまりver-が「信」、-jetiが「取る」を表しているのではないか。

 ただ、古代教会スラヴ語のこの表現が、そのままスロヴェニア語に受け継がれたのかどうかは分からない。「古代」と付いているけれど、英語に対する古英語のような関係とは違い、古代教会スラヴ語がロシア語やスロヴェニア語などになったわけではない。もしかしたら古代教会スラヴ語の影響なのかもしれないし、元々スラヴ人たちの間にこういう言い回しがあったのかもしれない。元々あったのならスロヴェニア語以外にほとんどその名残が見られないのが不思議なので、どちらかというと古代教会スラヴ語の影響なのかなと思う。

まとめ

 結局のところ語源を遡れるには限界があって、まだまだ調べたりないのだけど、少なくともverjetiが「信」+「取る」という組み合わせで出来ているのだということは、正解に近づけたような気がした。スラヴ語の動詞の不定形は、基本的に「語根」+「テーマ音」+「接尾辞」という構造になっている。そこで最初はverjetiがver-je-tiあるいはverj-e-tiのような構成をしているのかと考えたけど、どうもその可能性は皆無に近いことが分かった。それよりももっと納得のいく語源が見つかったので安心した。

 先週くらいから、そろそろスラヴ語の動詞の構造についての記事を本格的に書こうと思っているのだけど、なかなか書けないでいる。今回書いた記事のことも考えると、もうちょっと「分からないこと」を潰してから始めるのがいいかもしれない。次週何を書くかもまだ未定。ただ、十中八九スラヴ語の話にはなると思う。

スラヴ語動詞の構造 進捗メモ2

「スラヴ語動詞の構造」について

 スラヴ語の動詞の構造について、原求作さんの『ロシア語動詞の構造』を参考にしつつ調べるという試み。スラヴ語とは、ロシア語を含むスラヴ系諸言語のこと。対象言語はロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語、ブルガリア語、マケドニア語の12言語。『ロシア語動詞の構造』が、動詞不定形の分類を基本としているのに対して、ブルガリア語とマケドニア語には不定形がないので、この2言語に関しては扱いを保留中。でも不定形以外の動詞の構造は調べたい。

 具体的にどんなことをやっているかというと、『ロシア語動詞の構造』で動詞の構造はかなり細かく説明されているので、それをほかの言語にも当てはめていく。ロシア語のплести{plesti}がплет-ти{plet-ti}という構造になっているのなら、ポーランド語のpleśćも、スロヴェニア語のplestiも、同じplet-tiという構造をしていると考える。そして、そこに表れる細かい変化を観察する。plesti「編む」の場合、ロシア語とスロヴェニア語はよく似ているけれど、ポーランド語ではt→s→śという変化が起きたんだな、というように。

 こんなことができるのも、語源を共有している語がスラヴ語によく残っていて、お互いに本当によく似ているからこそ。とはいえ、ポーランド語のpleśćのように、ほかと少し違う形に変わっているものもある。そういう点を比較していくのがこの「スラヴ語動詞の構造」でやりたいこと。まとめるのはまだ先になるので、この記事では今現在の進捗状況とぶつかった問題を、前回に続きメモしておく。

第4課 進捗メモ2

 第4課は不定形と現在形の関係。ロシア語以外の不定形と現在形を、別紙にまとめた不定形の分類ごとに書いていく。問題は次から次へと出てくるけれど、作業は割と順調。

 スラヴ語の動詞現在形は人称(1人称・2人称・3人称)と数(単数・複数)によって活用するので、現在形だけで6つの変化形があるのがふつう。スロヴェニア語では双数もあるので、現在形が9つある(怖)。今回は動詞の構造を比較するだけだから、変化のタイプが分かればそれで十分なので、1人称単数・2人称単数だけメモする。

 この現在形1人称単数・2人称単数を見て紙に書いていく作業が実に楽しい。意味わからん現在形にぶつかることもあるけどそれはそれ。不定形の分類は同じでも、現在形の分類は別だったり、現在形で同じ語尾が付くとしても、違う音変化を起こしていたりするので、とにかくたくさん例を集める必要がある。そのために、辞書をぱらぱらめくって語を探す時間は何ものにも代えがたい。ただずっと同じ作業を繰り返すことになるので割と疲れる。

問題5 分類が分からない語

 ぶつかる問題のほとんどがコレ。不定形の分類に従って作業を進めているのに、そもそもどのグループに分類されるのか分からないものがある。『ロシア語動詞の構造』における不定形の分類は表層構造ではなくて、深層構造に基づいて分類されているので、zobaczyćとukryćのように見た目は同じyćで終わっていても違うグループだとか、そういうことがあり得る。スラヴ語間で語源も構造も同じ語があれば分かりやすいのだけど、実際は語源は同じでも動詞を作る構造は別ということもある。この辺り素人にはちょっと厳しいかも。

 たとえばセルビア語のпросути{prosuti}「こぼす」は現在形がпроспем{prospem}となり、不定形にはないп(p)が現在形に現れる。しかしこういうタイプの動詞がほかスラヴ語にはあまりない。ロシア語のпросыпать{prosypat'}「こぼす」が似ているけれど動詞の構造が違うので、ロシア語のほうがどういう構造かは分かっても、セルビア語のほうは分からない。現在形を見る限りでは、просути{prosuti}はもともと語根にп(p)をもっているんだろうけど、そうだとしたらгребсти{grebsti}と同じグループに分類されることになり、しかも違う音変化を起こしていることになる…。うーんわからん。

 スロヴェニア語はverjeti「信じる」が現在形(1単)でverjamemとなる(mが現れる)理由と、močiの現在形(1単)がmoremとなる理由がよく分からない。verjetiの活用はvzeti → vzamemのようなタイプと似ている。しかし意味からするとverが語根だと思うし、ver-jetiだとしたら接頭辞も接尾辞も使わず語根+語根+語尾という構造をしていることになる。そんなことがあり得るのか…。močiは不定形の分類は分かる。ロシア語のмочь{moč'}やポーランド語のmócと同じで深層構造はmog-tiのはず(gtiという子音連続が音変化を起こす)。過去形はmogelだし間違いないと思うのだけど、なんと現在形はmorem, moreš...とgではなくrが現れる。過去形がmorelになっていたらまだ良かったものの、これも一体どういうことなのやらサッパリ。

次回予告的なもの

 今回もこういう記事になったので、来週も同じような記事を書くことになるかなと思う。まだまだ終わる気配がない。どこかでバーッと時間を取って作業時間を増やしたい。このブログを書いている時間がもったいないもうちょっとで第4課の範囲が終わるはずなので、そしたら一旦第1課~第4課辺りまでまとめる、というのもありかもしれない。第2課と第4課が一番面白いところだと思うから、ここまでまとめたらあとは飽きてやらなくなる可能性もないとは言い切れないけども。

スラヴ語動詞の構造 進捗メモ

スラヴ語動詞の構造

 先週の記事で、原求作さんの『ロシア語動詞の構造』を参考にしてスラヴ語の動詞の構造を調べたい、ということを書いた。対象言語はロシア語のほかに、ウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語ブルガリア語、マケドニア語、古代教会スラヴ語。スラヴ語はまだいくつかあるけれど、資料が足りないのでこれが自分の限界である。これで12言語、単純に考えてロシア語だけ調べるのに比べて12倍の労力がかかる…。

 今までに調べて途中で放置していたのがあるので、その続きから調べ始めた。具体的に言うと、『ロシア語動詞の構造』の第1課、第2課、第3課までは終わっていたので、第4課「動詞不定形と動詞現在形の関係」を今調べているところ。第4章と聞くと「なんや結構進んでるやん」と思うかもしれないけども、これでもまだ不定形と現在形を調べただけで全然まだまだ…! これから過去形、能動形動詞、被動形動詞、副動詞、命令形と様々な形態が続いていく。それが第5課と第6課で、第7課は不規則動詞、そのあとに補説がある。まだまだ先は長い。

 ということで、今回は軽く進捗状況と、ぶつかった問題をメモしておく。

問題1 ブルガリア語とマケドニア

 『ロシア語動詞の構造』の第1課から第4課までは、基本的に不定形と現在形のことが書かれている。ここで問題なのが、ブルガリア語とマケドニア語には不定形が存在しないということ。うーんどうしたものか…! しかもよくよく考えると、第5課以降もだいたい不定形の分類に従って話が進んでいくので、不定形をもたないブルガリア語とマケドニア語を対象に入れるのはきついかもしれない。

 そもそもスラヴ語の中で、ブルガリア語とマケドニア語は少し特殊な言語である。不定形が存在しないだけでなく、動詞の時制もロシア語より複雑なので、『ロシア語動詞の構造』を参考にしてアレコレ調べるには……やっぱりちょっときついかも。

 しかしそれでもスラヴ語の一員であることには変わりない。こうなったらブルガリア語とマケドニア語だけ別に調べることにするとか。ちょっと、このあとの第5課、第6課辺りもどう調べるか、一度考える必要がありそう。

第1課~第4課 進捗メモ

 第1課ではロシア語動詞の基本的な構造、第2課では不定形の分類、第3課では現在形の分類、第4課ではこれらを受けて不定形と現在形の関係について書かれている。スラヴのどの言語でも動詞の基本構造は大して変わらなくて、『ロシア語動詞の構造』における分類がほぼそのまま通用するのが有難い。とはいえ『ロシア語動詞の構造』はロシア語について書かれた本なので、ほかのスラヴ語についても調べようとすると、多少分類をいじる必要もある。

 例えば、不定形の分類で「語根末にbがある」グループ。ロシア語ではб(b)を語根にもつгрести(現在形гребу)や、скрести(現在形скребу)がこのグループに属す。このグループの動詞は、現在形で語根にбが現れ、不定形にも実はбが隠れている(元はгребтиという構造だった)。『ロシア語動詞の構造』では「語根末にpがある」動詞については書かれていなかったけど、セルビア語、クロアチア語、古代教会スラヴ語などの本を見ると語根末にpをもつ動詞があって、語根末にbをもつ動詞と同じグループに属していることが分かる。なので、改めてロシア語でも「語根末にpをもつ動詞」はないのか?と探したけど辞書には載ってないみたいだった。しかしセルビア語などに存在することを考慮すると「語根末にpまたはbがある」グループとしてまとめ直すのが妥当かな、と思う。

 現在形の分類は、ロシア語だとе型とи型の二つに大別され、あとは少数の不規則動詞があるだけ……なのだけど、ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、古代教会スラヴ語以外の8言語には、これに加えてもう一つ動詞の型がある。これに関しても、ロシア語の分類はいったん忘れて、再分類する必要がある…。例えばスロヴェニア語では現在形1人称単数の語尾が-am, -em, -imの3パターンある。a型、e型、i型という風に分かれているようにも見えるけれど、そもそもロシア語には現在形1人称単数の語尾がм(m)で終わるような型が(一部の不規則動詞を除いて)存在せず、1人称単数にmが現れるのは西と南の現代スラヴ語における特徴となっているので、1人称単数に-mをもつタイプをまとめて仮に「混合型」と呼んで分類することにした。スロヴェニア語のa型、e型、i型が全部ここに入ってしまうので、まだ再検討の余地があるかもしれない。

問題2 動詞の分類について

 上に書いたように、ロシア語の分類だけでは通用しない部分も多少ある。例えば「語根末にs, zがある」グループは、ロシア語だと不定形語尾を付けても語根が変化しないタイプだけど、ポーランド語やスロヴェニア語などでは変化する。そうなると、『ロシア語動詞の構造』でされていたような、深層構造に基づく分類、「語根末に○○をもつ」とか「語根と語尾の間に○○をはさむ」のような分類だけだと不十分な気もしてきた。

 しかしこれこそが最大の面白みというか。不定形と現在形の関係を調べると、不定形が「語根末にs, zがある」グループは動詞の活用が見事にすべてe型(混合型の場合はeが現れる型)になる。不定形語尾を付けたときに起こる変化は様々だけど、根っこに共通したものをもっているのがすごく面白い。

問題3 古代教会スラヴ語

 これは些細な事だけど、一応。最初は古代教会スラヴ語についてまで調べるつもりはなくて、第4課の範囲から一緒に調べ始めたので、後で第3課までの範囲についてやり直さないといけない。古代教会スラヴ語はもう死語だから、対象に含めるかどうかちょっと考えたけど、データは揃ってるしどうせだからやってしまおうということで。

次回予告(?)

 興が乗ってきたので、しばらくスラヴ語動詞の構造について調べるつもり。ある程度まとまったらブログに書きたい。しかしまとまるのはだいぶ先になる、というか、最悪まとまらずに途中で飽きる可能性もある。なんというか、やってる間は楽しいけど、第3課までやって一度放置したように、別に面白いことを見つけたらそっちに興味が移ってしまう。なるべくそうならずに最後までやりとおしたいところ。

今日のネタがないのでネタ探し的な雑記

 語学のことを書きたい! と新たにブログを立ち上げた(というか作ったまま使っていなかったブログを引っ張り出した)のはいいものの、週1で更新するのがなかなか厳しい。その理由は何かというと。圧倒的にインプットが足りない。インプットなしにアウトプットせよというのはちょっと難しい。

 ここより長いこと書いているアニメ漫画感想ブログ「くろくろDictionary」のほうは、インプットが絶えずある。毎週アニメを見ているし、月に5誌購読している漫画雑誌、漫画の単行本、アニラジ、ゲーム、小説、etc.とにかく話題には事欠かないし、インプットしたものを自分の中で整理してアウトプットするだけで十分記事になる。ところが、語学に関してはほとんどインプットがない。定期的に買っている雑誌があるわけでもなく、テレビを見ているわけでもラジオを聴いているわけでもない。唯一、図書館にはたまに行って、何か興味を魅かれたものを借りてきて、自分の中に語学の風を吹かせている。そうして何かに触れることをしないと、好きなことでもたちまち心から消えてしまうんじゃないか、と思うので。

 1週間に1回でもブログを書くことを決めてそれを続けて行けば、ちょうどいい空気の入れ替えになるんじゃないかと思った。ブログ作っておいて「好きな時にかけばいい」と思っていると全然書かなくなってしまうので、多少無理矢理だけど、1週間に1記事書くというルールを自分に課した。あっちのブログも同じように最低でも1週間に3記事は書くと決めて、今のところこれを続けられている。ただ、最近あっちのブログで3記事書くのがギリギリで日曜日にずれ込みつつあるので、今日は語学ブログを書いている場合ではない。でも何か書かなければ、今週書かなかったら来週も書かないかも……ということで、適当にも程があるけど、なんとか、書いてみた。

 

 これだけじゃちょっとアレなので、過去にやりかけたまま放置していることで、今後使えそうなネタを探してみる。

スラヴ語動詞の構造

 原求作さんの『ロシア語動詞の構造』という本を参考に、ロシア語だけでなくもっと範囲を広げて、スラヴ語派の動詞の構造について調べてみようとした。ルーズリーフ10枚くらいに書いたまま放置している状態。分からないこともあるけど、この作業はすごく楽しい。これの続きをやりつつ、ブログのネタにするというのもいいかもしれない。

スラヴ語名詞の構造

 同書にならって今度は動詞ではなく名詞の構造を(もちろんロシア語だけじゃなくスラヴ語の範囲で)調べてみようかなと思ったこともあった。これはほとんど取り掛かる間もなく、ようするに何もやっていないも同然ということ。

万能の翻字について

 そんなものないことは百も二百も承知だけど……。アラビア語とか、グルジア語とか、インドの言語とか、ラテン文字以外の言語の場合、いくら頭で「この文字はkと読む」みたいなことが分かってても、文字を見て音のイメージがすぐに出てこない。そこでラテン文字に翻字する。読めない英語に対して、カタカナで読み方を書くようなもの。その場合はラテン文字をカタカナに翻字していることになる。

 しかし、カタカナにせよラテン文字にせよ、世界中の様々な言語の音を表すには限界があって、翻字するにもいろいろな工夫が必要になる。実際いろいろと工夫されてるんだけど、問題はその工夫の仕方が言語によってバラバラということ。系統的に近い言語どうしだと、音も似ていることがある。ところが、文字が読めないと翻字することになり、翻字の方法が違うと、同じラテン文字で似ている音を表しているのは分かっているのに、全然違う表記になる。たとえばカタカナなら「シュ」と書くであろう音を、ラテン文字でshと書いたり、šと書いたりみたいなこと。

 同じ音を完全に同じ文字で翻字しようと思ったら、簡単なこと、IPA国際音声字母)を使って発音を直接表記すればいい。でもそうじゃなくて、そこまで正確でなくてもいい……。長母音を書くならāかaaかどっちかにしてっていうくらいの話。なんとも自分でおかしなことを書いてるのも分かってるのだけど、IPAほど正確な発音表記でなくていいから、もうちょっと言語ごとの発音に即した翻字のシステムがほしい。

 しかし土台無理な話である。元からラテン文字を使っている言語でも表記方法なんて様々。フィンランド語は長母音をaaのように書くけど、ラトヴィア語はāとかēみたいに書く。英語はshと書くけどチェコ語だとšと書く。文字の統一性が欲しいのなら、先に書いたようにIPAを使って、すべての文字を別の法則によって書き表すほかない。ネタを探すつもりだったのに話が終わってしまった。これはボツということで…

印欧語の音韻推移について

 グリムの法則と呼ばれる有名なゲルマン語の音変化がある。英語やドイツ語の先祖、ゲルマン祖語は、印欧祖語から受け継いだ一連の子音をドミノ倒しのように変化させた。詳しいことは省くけども、この音韻推移が起こらなかったラテン語と比べると、ラテン語でpとなっている音が、ゲルマン語ではfになっている(「足」ラテン語pēsに対して、英語foot、ドイツ語Fuß; 「魚」ラテン語piscisに対して、英語fish、ドイツ語Fischなど)。

 その元となった印欧祖語の子音体系について、伝統的な再建形とは別の説があって、そっちの説だと、ゲルマン語に起こった音韻推移や、ほかの言語に起こった変化・起こらなかった変化、いろいろなところに影響が出てくる。それを自分の手で調べて確かめてみたいなと思ったことがあった。どうも本で説明を読んだだけだといまいち実感がわかないというか、具体的にどうなっているのか見えづらい。

 しかしそもそも、印欧祖語の音がどのように変化していったのかということがちゃんと分かってない(とくにアルバニア語とかアルメニア語とか、あとはインド系…)ので、そっちを勉強するほうが先で、これもやりたいことの一つ。ブログで使えるかどうかはともかく。

古代語の古代とはいつのことなのか

 これは割とすぐに書けそうなネタ。古い言語を「古英語」「古代ペルシア語」「古代教会スラヴ語」みたいに言ったりするけど、同じ「古」という言い方をしていても、その年代って全然違うよね? という話。たぶん違うはずである。

 年代を調べるとなると、きちんと調べないといけない。ネットの記述は鵜呑みにはできないので、できれば専門に書かれている本を使って調べたい。そう考えるとなかなか手が進まなくて、確か前にも途中まで調べたような……と思いながらまた一から調べ直して、またその紙をどこかにやったままだったりして、なんとも中途半端な状態。一度ちゃんと調べたいところ。

 

 なんだかんだでそれなりの文量になってきたので今日はこの辺で。ではまた来週。

日本語の悩み

はじめに

 日頃文章を書いていて、日本語ならではの悩みにぶつかることがある。ひらがな、カタカナ、漢字の3種類の表記体系を混ぜて使っている、日本語ならではの困ったこと。今回はとりあえず2つほど。

ひとりひとり

 「それぞれ」「一人ずつ」のような意味での「ひとりひとり」。ふと使おうと思ったとき、どこまで変換するかで少し迷う。〈一人一人〉って書くとなんか変な感じがするので、結局のところ〈ひとりひとり〉か〈一人ひとり〉に落ち着くことが多いような気がするけど、実際自分でも毎回何て書いてるのか分かってない。

 大修館書店が運営する漢字文化資料館というサイトに、これに関連したQ&Aがあった(「一人一人」と「一人ひとり」とは、どう違うのですか?|漢字文化資料館)。ここでは無理に一つに決める必要はない、と結論付けられていて、それは確かにそうなんだけど、それでは若干納得できないような…。

 似たような問題で「こうたいごうたい」をどう書けばいいか迷ったことがあった。そもそも〈こうたいごうたい〉と打って変換しようとしても、上手く変換されない。それで、もしかして一般的な言葉じゃないのか? と思って検索すると、自分のほかにもどう書けばいいのか分からない人がいて安心した。「ひとりひとり」が〈一人一人〉と書けるように、こちらも〈交代交代〉あるいは〈交替交替〉と書けば良いらしい。〈交代〉と〈交替〉だと意味が違うのでは? と思ってたけどこれも調べたら勘違いで、『漢検漢字辞典(初版)』では一つの見出しにまとめて書かれている。

 どちらの場合も、漢字に変換しようとしたときに、違和感があった。でも多少の違和感は我慢して、漢字で書いたほうが、字数的にもスッキリしていいかもしれない。「こうたいごうたい」なんて全部ひらがなで書くと長すぎるし。ただ漢字ばっかり連続すると逆に読みにくくなることもあるから、また悩む。漢字が多いな~と思ったら〈ひとりひとり〉、ひらがなばかりになるな~と思ったら〈一人一人〉、間をとって〈一人ひとり〉とか、選択肢が多すぎる。自由に書き方を選べるのは良いところだけど、その自由さ故に悩んでしまうこともある…。完璧主義な私はどんな場合にせよ一つの書き方に決めたい! と思うのだけど、なかなか難しい。

 一人、二人、3人?

 ブログはたいてい横書き。横書きのときの数の表し方について、『新しい国語表記ハンドブック(第7版)』によると、原則としてアラビア数字(1234567890)を使う、ただし「ひとつ」「ふたつ」「みっつ」などと読む場合など、いくつかの場合には漢数字を使うと書いてある。〈1つ1つ〉〈2日酔い〉〈3日3晩〉のように書くのではなく、〈一つ一つ〉〈二日酔い〉〈三日三晩〉のように書くということ。

 しかしこれに倣うとすると、〈一人〉〈二人〉までは漢数字なのに、〈3人〉はアラビア数字になってしまう。どちらも人を数えているのに、漢数字とアラビア数字を混ぜて使うのが、どうしても変に感じてしまう。『新しい国語表記ハンドブック』には、〈一般〉〈一部〉のように数の感じの少なくなった場合にも、漢数字を使うと書いてある。そうなるとますます、漢数字とアラビア数字が混在する可能性が高くなる。そもそも「数の感じの少なくなった場合」とは!? 〈もう一度〉とか漢数字で書く場合が多いけど、〈一般〉や〈一応〉とかに比べると、割と数の感じが残っている気がするような。

 とはいえさすがに〈1般〉や〈1応〉などと書くのはおかしすぎるし、漢数字でしか書けないものもあって二つの表記法を混ぜて使うのは仕方ない、ということは分かる。でも〈1個〉はアラビア数字なのに〈一人〉は漢数字だとか、どうも変な感じがぬぐえない。そこで迷ってしまって、あるときには〈一人〉と書き、またあるときには〈1人〉と書くという、適当な感じで文章を書いてしまっている。それが自分にとって許しがたいことで、いつかは解決したいんだけど、これがなかなかに難しい問題。

 

 この問題をさらにややこしくする要素がいくつかある。「ひとつ」や「ふたつ」ではなく「いち」「に」などと読む場合はアラビア数字で書くのかというと、これがそうとも限らず、四字熟語の場合には〈一意専心〉〈二束三文〉のように漢字で書くのがふつう。書籍のタイトルも、〈第七版〉→〈第7版〉のように書き換えるのならまだしも、タイトルそのものは勝手に変えられない。森博嗣著『六人の超音波科学者』は縦書きでも横書きでも〈6人〉ではなく〈六人〉のままである。ここまでくると、『新しい国語表記ハンドブック』に書いてあるのは一体なんだったのか、という気さえしてくる。

 しかし、文章を書き続けていくのなら、何か一貫した決まりがほしい。適当に書くのはどうも……ということで、かくなる上は、(1)『新しい国語表記ハンドブック』に従って、多少の違和感には目をつぶって、〈一人〉〈1個〉のように書き分ける。(2)自分が違和感を持たないような書き方の決まりを、自分で作る。(3)時と場合によって〈こと〉と〈事〉あるいは〈とき〉と〈時〉などを使い分けているので、もっと柔軟に考えて、細かい表記の違いも許すことにする。このどれか。

 今は(3)に近くて、しょうがないかと半分諦め風味で、でもやっぱり違和感が~というところでウロウロしているような感じ。このまま違和感を受け入れていく方向になるか、(1)や(2)のように表記を統一できるかは今後の自分のやる気次第。

おわりに

 英語だったらこんな悩みはなかなかないと思う。日本語ならではの悩み。しかしこういうところが、日本語の面白いところでもあって、表記の使い分けは面倒だけど、言語学的には興味をそそられる。逆に英語には英語ならではの悩みがあったりするんだろうなとか、日本語の悩みにしてももっとほかにもあるはずで、今後も思い出したときにこうやって記事にしておきたい。