かってな語学日記

日本語、外国語、言語学、文字、その他いろいろな語学のこと

スラヴ語はマイナーなのか

 最初の記事でスラヴ語がとくに好きと書いたので、まずスラヴ語について何か書こうと考えて「スラヴ語はマイナー言語なのか」というテーマが思い浮かんだので書きます。結論から先に言うと、自分は、スラヴ語はマイナー言語だと思います。

 

スラヴ語とは?

 まず「スラヴ語って何?」という人のためにちょっと説明しておきますと、〈スラヴ語〉というのは、ひとつの言語を表しているわけではありません。〈スラヴ語派〉というグループに属す言語の総称です。後述するように、東スラヴ語、西スラヴ語、南スラヴ語の3つに下位分類されます。〈東スラヴ語〉というのも、このグループに属するロシア語ウクライナベラルーシなどの総称です。〈スラヴ諸語〉とも言いますね。自分は〈スラヴ語〉という呼び方のほうがシンプルで好きなので、こっちを使ってます。

 以下、〈東スラヴ語〉〈西スラヴ語〉〈南スラヴ語〉3つのグループに分けて、マイナーなのかどうかについて自分なりの印象を書いていきます。自分的には学習・研究の意味合いで関わることが多いので、とりあえず今回は参考書の数を中心に考えていきますね。

 

スラヴ語の参考書

東スラヴ語

 このグループに属する主な言語はロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語です。

 ロシア語はスラヴ語の中では一番のメジャー言語でしょうね。〈スラヴ語〉ということばを聞いたことがなくても〈ロシア語〉と聞くと具体的に「ロシアの言語だ」ということを大体の人がイメージできると思う。参考書の類もロシア語はかなり充実してるので、初心者にも非常に学びやすい言語です。自分は最初スロヴェニア語からスラヴ語に興味を持ったんですが、圧倒的にロシア語のほうが参考書の数が多く、ロシア語の学習のほうがかなり捗りましたね。

 とはいえ、ロシア語がメジャーだと言えるのはあくまでもスラヴ語の中でいえばという感じで、英語やフランス語や中国語といった大言語と比べると、参考書の少なさに泣きそうになります。辞書にもうちょっと種類があれば嬉しいんですが、あまり種類がなく、フランス語や英語のように新しい版が積極的に作られているわけでもない。ただスラヴ語の中でいえば本当に有難い参考書の多さで、書店へ行ってもロシア語だけで棚ひとつ作られるくらいなので、スラヴ語はマイナーだとしてもロシア語はメジャーとして特別扱いできるかもしれませんね。

 ウクライナ白水社のニューエクスプレスシリーズから入門書が出ています。有難いですね。ほかに単語集、辞書も出ていますが・そう種類がないので選り好みできないんですよね。ベラルーシはこれがまったくと言っていいほど参考書がないんですが、大学書林から出ている『ベラルーシ語基礎1500語』は小文法もついていてかなり有難い本でした。

西スラヴ語

 このグループに属する主な言語はポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語など。

 ロシア語に次いでポーランドチェコ語は結構参考書が出ています。とくにチェコ語はその質が良い。ポーランド語もなかなか充実していて言語の難しさはさておくとして、初心者にも入りやすいと思う。スロヴァキア語はかなり詳しい『スロヴァキア語文法』が出ていますね。本当に有難い。これは非常に詳しくまとまっていて良い本。

 参考書の質と量のバランスを見ると、西スラヴ語はなかなか良い品ぞろえ(?)で、マイナー言語と言ってしまうにはちょっともったいないですね。それでも自分的にマイナーの範囲にとどまってしまう理由は、とにかく辞書の種類が少ないということですね。大きなサイズの便利な辞書がほしい。外国語学習はともかく、研究しようと思ったらやっぱり詳しい辞書がほしい。それも日本語版で。西スラヴ語のうちソルブ語は大きな辞書が出ていて羨ましい。これ、まだ実物を確認できてないんですが、かなり役に立ちそうなんですよね。ほしい。

南スラヴ語

 このグループに属するのはスロヴェニア語、セルビア語、クロアチア語ブルガリア語、マケドニア語など。

 自分がスラヴ語に興味を持った最初のきっかけがスロヴェニアでした。スロヴェニア語の面白さはまた別の機会にでも語りたいと思いますが、知ったのは図書館で語学書をあさっていて、ふと『スロヴェニア語入門』という本が目に入ったから。単語集も出ていましたね。

 セルビアクロアチア語も、種類は少ないものの良い参考書があります。『セルビア語読解入門』とか『クロアチア語ハンドブック』とかですね。ブルガリアもニューエクスプレスから出ている入門書があって入りやすかった。西スラヴ語のポーランド語やチェコ語ほどではないにせよ、南スラヴ語もあまり種類はないながら良い本はいくつか出ているので、学習者や、自分のような語学オタクにとっては非常に有難いです。マケドニア語はベラルーシ語と同じような具合で、ほとんど本が出ていないのが悲しいですが。

 

スラヴ語に関しての本

 個別の言語について、良い本があるぞとか、あまりないぞとか、アレコレ書いてきました。それとは別に〈スラヴ語派〉について知る本がありまして、これもなかなか充実してます。三省堂からは『スラヴ語入門』が出ていますし、白水社からは『比較で読みとくスラヴ語のしくみ』もあります。黒田龍之助さんの書かれた『チェコ語の隙間』は楽しく読めるスラヴ語についてのエッセイ。

 スラヴ語の歴史に関して知ることのできる本もあります。『共通スラヴ語音韻論概説』や『古代教会スラヴ語入門』など。スラヴ語の世界は知ろうと思えば割と、とことん知ることができる。良い本がたくさんあるのが良いところだと思います。ただ、マイナーかどうかとは別の話。

スラヴ語はマイナーなのか

 ではでは改めて結論を。やっぱり、スラヴ語はマイナー言語だと思います。参考書についてひととおり書いてみると、良い本はあるのだけど物足りないというところに落ち着きます。ほかにも一冊の本としてとても優秀な参考書が出ている言語、あるいは言語のグループはいろいろあります。スラヴ語も含めそれらに総じて言えることは、「もうちょっと選べたら嬉しい」ということ。それは英語やフランス語やドイツ語などといったメジャー言語の充実っぷりにはどうしても及ばなくて、今のところは、単体でどれだけ良い本があっても、マイナー言語であると思わざるをえません。ロシア語も含めて。

 ところで、マイナー言語とはそもそも何なのか。〈minor〉を辞書で引くと「比較的重要でない」とか「小さいほうの」などと出てきます。本当は話者人口とか、学習者人口とかも調べた上で総合的に語るべきなんですけども。今回は参考書についてなので、「参考書の種類が少ない」言語という感じでしょうか。決して「重要ではない」とは思えないので、何か〈マイナー〉に変わるふさわしい呼び方があればほしいところです。

 参考書の数だけで言うなら、イタリア語もマイナー言語だと思ってます。でもイタリア語はTVやラジオで学習番組を放送したりもできるし、スラヴ語に対して「マイナーだ」というのとは何か感覚が違いますね。

 

 自分がスラヴ語をマイナーだと思うのは世間的な認知度がどうとかよりも、実際本屋や図書館に行ってスラヴ語関連の本を探したとき、もっと種類が充実しているメジャー言語の存在があるから。スラヴ語以外の言語についても、いろいろな要因で「あれはマイナー」「これはメジャー」と勝手に判断してます。

 例えば上にも書いた話者人口とか、あるいはTV放送のあるなしとか、アニメ・漫画などで取り上げられる数とかまで、様々な観点から言語の「メジャー」「マイナー」について考えてみると面白いかも。いつか調べてみたい。